2022年9月『9月県議会』一般質問
「青少年犯罪の抑止に向けた児童虐待防止対策について」

 発言通告に従い、一般質問を行います。
 一つ目の項は、「青少年犯罪の抑止に向けた児童虐待防止対策について」です。

 質問の主旨は、「児童虐待と少年犯罪」ということですが、私が今回、この問題を取り上げたのは、本年7月25日、26日の2日、我が国の世相を考えるべき、大変重要な事件への判決が出されたことがきっかけです。

 1件目は、いまから2年前、2020年8月28日、福岡市中央区の大型商業施設内において、女性を刺殺した容疑者の少年に対し、去る7月25日、裁判員裁判の判決が福岡地裁で開かれ、懲役10年以上15年以下の不定期刑が言い渡され、福岡地裁判決が確定したこと。


 2件目は、2008年6月、東京・秋葉原で7人が殺害された、いわゆる「東京・秋葉原連続無差別殺傷事件」で、最高裁で死刑が確定していた死刑囚に対し、7月26日、収容されていた東京拘置所で死刑が執行されたことです。


 いずれの事件も、人を襲撃して殺傷するという事は許されることではありませんし、当然、罪は償わなければなりません。しかしながら、今回の判決を受け、改めて注目するのは、その被告人たちの過酷な生い立ちにあります。


 福岡市中央区の大型商業施設内で女性を刺殺した容疑者の少年の場合、弁護人は、少年が幼い頃から家庭内で虐待を受けていたことや、施設を転々としていたこと、少年院の仮退院にあたり、当初は少年の身元を引き受ける予定だった母親が、これを断ったことなどを挙げ、愛着障害にあった事を指摘しています。


 また、東京・秋葉原連続無差別殺傷事件の死刑囚についても、母親の過干渉、教育虐待、優等生からの転落など、凄絶(せいぜつ)な生育環境が要因にあったと言われています。


 いずれにせよ、こうした犯罪を起こした容疑者の過去、生い立ちが紐解かれると、そこには幼少期からの虐待が見えてきます。


 2021年、令和3年の警察庁の統計調査によると、少年非行の現状は、総検挙人員は17年連続の減少となっており、刑法犯少年の数も減少しています。

 
 「触法少年」及び「不良行為少年」の補導人員についても、いずれも減少傾向にあります。そして、少年人口の減少、少年非行件数も減少のなか、少年院に収容される少年も全国的に減少しています。しかし、一方で、在院する少年のうち「親などから虐待を受けた」と答えた割合は年々、増加の一途を辿っています。
 
 法務省「2021年、令和3年版犯罪白書」では、少年院に収容された者のうち、男子の約4割、女子の約7割が虐待を受けていたことが明らかになっています。さらに言えば、この数字はあくまで自己申告に基づくもので、実態はこれよりも多いと推測されています。また、虐待まで行かなくても、劣悪な家庭環境で育ってきた者は非常に多いということです。
 
 虐待が子どもにどのような影響を与えるか。これは医学、心理学の分野でも研究が進んでいます。心療内科医や精神科医、児童精神科医、心理療法士、そして、弁護士や更生を支援する団体などの報告によると、犯罪を起こしたり、再犯を繰り返す少年少女の多くは、幼少期に虐待を受けたり、劣悪な環境で育ってきたことも明らかになっています。

 身体的虐待を受けた子どもは、頭蓋内出血や火傷などの身体的障害を負うことがあります。そして、身体的虐待に加え、ネグレクトなどの心理的虐待は、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害などの発達障害。愛着障害、解離性障害、人格障害、PTSD、パニック障害などの障害が発生したりします。更に、反抗挑戦性障害、反社会的行動、非行、性非行、薬物依存といった、ある意味、自分でも抑制が効かない行動を続けることになります。


 ここで、誤解がないようにあえて伝えておきますが、虐待を受けた子が、すべて罪を犯すということではないという事は申し述べておきます。


Q1.そこで1点目の質問です。

 児童虐待と少年犯罪の関係について、知事はどのような所感をお持ちなのかお聞きします。

  •  厚生労働省が支援者向けに発出している「子ども虐待対応の手引き」によると、
    •  虐待が子どもに及ぼす心理的影響には、「対人関係の障害」、「低い自己評価」、「行動コントロールの問題」などの共通した特徴が見られる。

 

      • とされている。
      • 更に、裁判所職員総合研修所の研究によると、

 

    •  虐待が子どもに与える影響は、情緒、心理面だけでなく、行動面や対人関係の面にも及ぶこと。
    •  特に虐待を受けた子どもが思春期に差し掛かると、虐待の影響が非行という問題行動となって出現することが少なくないこと。

 

      • が報告されている。
        この他、虐待と非行の関連性は、学識経験者などの研究が進められている。

 

  •  虐待は子どもの心身の成長と人格の形成に重大な影響を与えるものであり、決して許されないものであると考えている。

 
  本県児童相談所における「児童虐待相談件数」について、2021年度・令和3年度の相談対応件数が公表されましたが、県所管分で6,184件、政令市所管分で5,048件、合計11,232件となっており、児童虐待相談件数は、毎年、増加しています。

 そして、このうち児童虐待に係わる一時保護件数は1,437件で、県所管分で961件、政令市所管分で486件となっており、虐待相談件数の約12.8%となっています。

 
Q2.そこで質問です。
 一時保護された1,437件のケースは、その後、どのような処遇となっているのか、お答えください。
 

  •  昨年度、本県の児童相談所が一時保護を行った1,437件のうち、家庭での引き取りが1,308件、乳児院や児童養護施設等への措置入所が108件、里親やファミリーホームへの委託が21件となっている。

 
 児童相談所に寄せられた児童虐待相談のうち、一時保護をしないケースは9,795件に上り、基本、子どもは家庭に戻されます。
 
Q3.そこで質問です。
 面接相談を行った9,795件ですが、その後、家庭内での虐待はなくなったと考えて良いのか。そして、家庭内の養護環境は良くなったと考えられるのか、お尋ねします。

 合わせて、市町村の見守り対象となるのは、どのようなケースなの場合か、お答えください。

 

  •  人格を否定するような言い方で子どもを叱ってしまった事案や子育てに悩む保護者が衝動的に手を挙げてしまった事案など、虐待の程度が比較的軽微で、保護者が虐待したことを反省しており、保育所や学校等による子どもの安全確認が継続的に可能な場合には、児童相談所は一時保護を行わず、在宅での指導を行っている。
  •  在宅指導のケースでは、児童福祉司がしつけを理由とした体罰であっても虐待であることを保護者に気付かせた上で、児童心理司が子どもの個人の特性に沿った子育てのアドバイス、カウンセリングなどを行っている。

 

      •  通常、1〜2回のこうした助言指導で、虐待の再発リスクが解消されるが、事情の複雑なケースについては、虐待の再発を防止するため、継続して訪問や通所による指導を行っている。

 

  •  それでも、なお、その後の離婚や経済的困窮などで家庭環境が変化し、虐待の再発リスクが高くなる可能性があることから、児童相談所の指導終了後も、適切な養育環境が維持されるよう、市町村の子育て支援施策の活用や家庭訪問等による見守りに引き継いでいる。

      •  その後、市町村の要保護児童対策地域協議会において、保育所や学校などと情報共有を行った結果、児童相談所が虐待の再発リスクが高まったと判断した場合には、再度、継続して指導を行っている。


 続けます。児童相談所で一時保護を行った子どもたちのうち、家庭に返すのが困難なケースの場合、施設措置となります。


Q4.そこで質問です。

 施設入所に年齢制限がある場合は、一定年齢に達した者はどのように社会的自立を果たしていくのか、お答えください。
 

  •  里親委託や施設への入所は、原則22歳の年度末までとされており、施設職員や児童相談所が子ども及び保護者と協議しながら、子ども一人一人の自立支援計画を策定し、円滑な自立を図っているところである。
  •  こうした子どもたちは、保護者からの支援を受けられない場合が多いことから、県では、施設等を退所後5年以内の方を対象とした家賃や生活費の貸し付け、就職やアパート賃借に必要な保証人の確保、退所前の「一人暮らし体験」等の支援を行っている。
  •  また、子どもたちが孤立することがないよう、平成24年度から、NPO法人に委託して、施設退所者からの生活や就業に関する相談に応じるとともに、退所者が集う居場所を提供するといったアフターケア事業を実施しており、昨年度は2,326件の相談があったところである。

 
 児童相談所、それぞれの市区町村、公的・民間施設などが連携し、虐待防止のみならず、子どもたちの養護、心身の健全育成、そして社会的自立を後押しするために様々な取り組み、対応が行われています。
 
 今回の質問にあたり、田川市で更生保護施設を運営されている「田川ふれ愛義塾」理事長の工藤良さんからいろいろお話しを聞き、ご指導を頂きました。
 
 その中で、「社会的セーフティーネットの網の目から〝こぼれ落ちて〟しまう少年少女たちがいます。こうした少年少女を救うため、行政として何をすべきか、何ができるか、まさにいま、そのことが問われています。」と述べられています。
 
 虐待を受け、家庭に帰れない・帰りたくない子どもたち。うまく社会自立ができない青少年。少年院を出たあと、戻る場所、安心できる居場所のないたち青少年。一定年齢に達して施設を出たものの、行き先がない青少年。こうした青少年が、再犯を繰り返したり、「どうせ自分は生きてる価値がない」と死を選んだり。更に、「死ぬしかない。他人を殺して死刑になる。」といったネガティブな思考に陥らないよう、社会的にいかにアンテナを張り、救い上げていくかが課題です。

Q5.そこで質問です。

 県として、更生保護施設に対し、どのような支援を行っているのかお聞きします。
 

  •  更生保護施設は、少年院等の矯正施設を退所した後、すぐに自立した生活 を送ることが困難な方を一定の期間保護し、宿泊場所や食事の提供、生活指 導や就労支援等を行う民間施設であり、県内では7施設が運営されているところである。
  •  犯罪や非行を犯した方の円滑な社会復帰を助け、再犯を防止するという重 要な役割を担う更生保護施設に対し、県では、更生保護法人福岡県更生保護 協会を通じて、人件費や需用費等の運営経費の一部を補助している。

 
Q6.併せて、こうした施設は、生きづらさを抱える青少年にとって大変必要な居場所、生活空間だと思いますが、施設は終の棲家ではありません。
 

  •  施設を出た後、保護観察期間中は保護観察官や保護司の支援はあるものの、期間終了後、うまく自立できず、生活に困窮するおそれがある青少年もいます。こうした青少年に対し、県の支援としては、どのようなものがあるのか、お聞かせください。

 

  •  保護司の支援により自立した生活が送れるようになった後、生活が苦しく なることもある。そのようなときは、自立相談支援機関が相談を受け、生活 支援を行う。
  •  自立相談支援機関は、県及び市が生活困窮者自立支援法に基づき設置して いる。相談者お一人お一人の話をよくお聞きし、現在の状況を把握した上で、 住居確保給付金の支給、就労支援、家計改善支援、生活保護等、活用できる メニューを組み合わせ、その方に最も合った支援を行っている。
  •  更生保護施設を出た後、生活困窮されている方を確実に支援機関につなげ ることが必要であり、保護観察所や更生保護施設を通じ、自立相談支援窓口 の周知に努めてまいる。

 
 社会を震撼させる少年犯罪が起こるたび、厳罰化が言われてきました。実際、今年4月に『少年法』が改正され、新たに成人の仲間入りをする18歳、19歳を「特定少年」と位置づけ、20歳以上と同じく刑事裁判として扱う対象事件が拡大されました。そして、これまで禁止されてきた少年の名前や写真、住所などを報じる「推知報道」も、起訴された「特定少年」については可能となります。

 厳罰化を歓迎する意見がある一方、これまで「家庭裁判所」や「少年院」が担ってきた「育て直し」の矯正教育を受ける機会が損なわれ、結果的に社会復帰が難しくなり、再犯に繋がりかねないと指摘する専門家もいます。

 
 冒頭にも申し述べましたが、一部の犯罪を除き、少年の非行や犯罪は、虐待やネグレクトなど不遇な家庭環境や育ち方に起因するケースが多い事は事実です。
 
 少年犯罪を抑止するのは厳罰化ではなく、虐待の防止、立ち直りや社会的自立を図れる社会環境をつくることこそ必要だと思います。
 
 そのことを申し述べ、知事の真摯な答弁を期待致します。